海の環境がおかしくなっている、地球温暖化が原因か?
というニュースを聞かれた方も多いのではないでしょうか。
北海道でイカが獲れなくなった、
でもマンボウやぶりが獲れているという話も聞いています。
瀬戸内海ではちりめん(シラス)がいなくなっています。

SDGs、二酸化炭素排出規制、温室効果ガス規制、地球温暖化対策、
などなど、地球環境を取り巻く様々な問題や取り組みが
毎日のようにニュースに取り上げられています。

その影響は、
毎年のようにやってくるようになった大型台風にも見て取れます。
上陸した地域一帯を水浸しにし、家や田畑、橋や道路も飲み込んでいきます。

色んな地域での環境変化は四季があり、
島国である日本にとっても本当に深刻な問題であることを
認識していく必要があると感じています。

Contents

1,昆布の前に地元のいかなごの話

私が住む神戸から明石辺りはいかなごのくぎ煮という郷土料理があります。
「いかなご」はちりめんと似ていますが違う魚です。

いかなごが獲れる春先にはスーパーにも生のいかなごが並び、
5キロ10キロと買い求め、各家庭でいかなごのくぎ煮を作ります。
親戚や友人に贈るために大量のくぎ煮を作る家庭も少なくありません。

各家庭には伝承されたレシピがあり、
そのレシピの違いを主婦の方々が井戸端会議で語るという光景もありました。

おそらくこの地域限定ですが、
いかなごのくぎ煮を送るための入れ物をセットにした
ゆうパックもありました。

その季節になると、いかなごのくぎ煮を煮る、
醤油と生姜の甘辛い美味しそうな匂いが、
色んな家から香っていました。

イカナゴの釘煮

でも、気が付くと、スーパーの魚売り場から、
3月になっても生のいかなごを見かけることはなくなり、
あの甘辛い美味しそうな匂いがしてくることもなくなっていました。

うちの会社でもいかなごのくぎ煮は取り扱いをしているため、
気になって毎年魚売り場を探しているのですが、
年々、値段が上がり、ついには姿を消してしまいました。

本当に悲しいことですが、
海産資源の豊富な瀬戸内海の環境も大きく変化しているようです。

2,天然昆布の不漁が続く

ニュースで見られた方もいると思いますが、
海藻も色んな所で影響が出ています。
当然昆布も不漁続きで、天然昆布が採れなくなっています。

2-1,天然昆布は2年物

うちの会社で主に取り扱いをしているのが、
北海道道南の函館近辺で採れる「函館真昆布」です。
「函館真昆布」と言っても馴染みのない方がほとんどではないでしょうか?

ちょっと前までは、「真昆布」と言われていて、
現在も「真昆布」と言われている方がほとんでです。
私も馴染みのある真昆布という表記で書かせていただきます。

通常天然昆布は2年で成昆布となり、7月下旬から8月にかけて収穫されます。
台風や夏の気温上昇、冬の荒波を乗り越え、
ウニやアワビの餌になる物もありながら、
2年と言う月日を海底の岩にしがみついて、
やっと無事立派な天然真昆布になるのです。

天然昆布の1年の物は収穫してはいけないという決まりもあり、
昆布漁師の方々は、2年物の昆布だけを収穫する目と腕があるのです。

2-2,昆布と気候変動

北海道の中でも南にある函館近辺の真昆布の収穫浜は、
他の昆布の収穫浜より地球温暖化の影響を受けており、
天然昆布の収穫量が激減しています。

以前は、北海道には台風は行かない、梅雨もないというのが定説でしたが、
近年は北海道に上陸する台風もあり、
6月に梅雨の様な雨が続くこともあるようです。
このような環境の変化はもちろん海の中にも影響してきます。

私の記憶によると、
平成26年、2014年に上質な天然真昆布が獲れて以来、
どんどん減ってきています。

確か、その冬に爆弾低気圧が北海道の海を荒らして、
海底の海藻を根こそぎ持っていったというようなことがありました。

2年物の昆布には致命的です。
1年目の水昆布も、その夏には収穫される予定の成昆布も
海の底からいなくなってしまったのです。
と言うことは2年間昆布の収穫量が減ってしまうということです。

その2年後を期待していたのですが、爆弾低気圧が来て以来、
昆布が獲れる色々な浜が磯焼け状態になってしまったようです。

その中でも致命的だったのが、真昆布の中で最上級浜で、
献上昆布も獲れる尾札部浜の天然昆布が壊滅状態だったことです。
この天然白口浜真昆布尾札部浜産は、この時以来ほとんど入荷がありません。

今思えば、2014年の爆弾低気圧の襲来は、
単なる一つの気象事例と言うだけではなく、
昆布業界にとって、海や地球環境にとって
抗うことができない、大きな変換期への警鐘だったように思います。

当時、深刻な事態であるとは思っていましたが、
2年間待てばまた天然昆布は従来通りに収穫されるものだと
信じて疑いませんでしたが、
磯焼けと言う、海底に海藻がないという状況が続いているようです。

2-3,昆布とウニ

ウニと昆布って関係あるの?
と思われるか方も多いのではないでしょうか。

実は、北海道においては昆布とウニは大きな関係があります。
ウニは美味しいですよね、私も大好きです。

もともとそんなに好きではなかったのですが、
北海道で獲れたてのウニを食べてから、大好きになりました。

ウニもアワビも昆布を食べているから美味しいのです。

通常ウニは冬の間には活動が鈍り、
いわゆる冬眠状態のようになります。

しかし、海の水温が上がった近年は、
冬にも活動し、昆布や海藻を食べ漁っているそうです。

昆布は夏に胞子を出し、秋には着床し芽が出てきます。
冬に大きくなる昆布ですが、ウニが活動を続けるので、
大きくなる前に食べ尽くされるのです。

冬にグッと水温が下がり、活動を休止したウニが、
水温が上がり活動を始めた頃には、
海の中はふさふさの昆布でいっぱいいなり
食べきれなくなっているのが通常でした。

しかし、昆布が大きくなる前にたべてしまうので、
中身も入っていないウニが大量発生しているんです。

漁師さんによると、中身が入っているウニは
5個に1個もあるかないかということでした。

海水温上昇は、こんなところにも影響しているのです。


*この画像は2014年に北海道に視察に行き、昆布漁に同行させていただいた際に私が撮影したものです。

3,昆布屋女将の嘆き

うちの商品は、
かつては天然白口浜真昆布を使った最上級の昆布佃煮、
汐吹昆布が最大のうりで、
高級出汁昆布としても使える天然真昆布を、
惜しげもなく佃煮にしていたのです。

3-1,自慢の高級昆布佃煮は・・

現在は、最上級の物以外は、養殖昆布や促成昆布に切り替わっており、
製造方法や配合を工夫し、今までの品質に近づけるよう努力はしていますが、
うちの商品を長らくご愛顧いただいている顧客様からは
お叱りを受けることもあります。
やはり、天然真昆布の厚みやうま味に勝るものはない
と言うのが実感です。

こんな状況ですが、『佃真』ブランドの物は何とか
天然真昆布で製造するよう頑張っております。

また、近年は、無添加商品に力を入れてきたのですが、
無添加商品が作れるのは、天然真昆布の持つ素材の良さに頼ることが多く、
今後の商品開発にも多くの課題が残ります。

3-2,昆布出汁はどうなる?

私がそれ以上に心配しているのが上質な出汁昆布がなくなっていくこと。
昆布屋に嫁ぎながら、昆布出汁デビューは遅かったのですが、
知ってしまったらもう後戻りはできなくなってしまいました。
現在では、冷蔵庫に昆布出汁がなかったら不安になってしまいます。

その出汁が取れなくなるなんて・・・

ここで一つエピソードをご紹介いたします。

うちの昆布を買っていただいている料亭さんの話なのですが、
その料亭さんは、元々うちのお客様ではありませんでした。

うちのショッピングサイトでは、
今や幻となった天然白口浜真昆布も掲載されています。
(色々な日本料理のお店から問い合わせもあるのですが、
現在、卸売りは中止させていただいております。)

大体はその話で納得していただくのですが、
その料亭さんは違ったのです。

その料亭さんは自慢の一品を持って社長に直談判に来られたのです。

社長の対応は、本当に申し訳ないのですが、
品薄な状況をご理解いただき、
現在の顧客様にお分けするのが精いっぱいと丁重にお断りいたしました。
それでも諦められず店頭販売している
天然白口浜真昆布を購入して帰られました。

しかし、その料亭の料理長は
尾札部産の天然白口浜真昆布でないと納得できる料理ができないと
何度もうちの店舗まで足しげく通ってこられました。

うちの社長も情に厚く、半端ない昆布愛の持ち主なので、
自分の愛する昆布をここまで求めて下さる情熱にほだされ、
お分けすることになりました。

元々こちらの料亭さんもお取引のあった業者さんはあったはずですが、
その業者さんでも手に入らなくなっているというのが現状です。

3-3,かつての業界事情

さて、
ではどうしてうちの倉庫には幻の天然白口浜真昆布があるのでしょうか?

話は少し昔にさかのぼりますが、
かつて天然昆布が沢山取れていた時の話です。

昆布は収穫され、乾燥した後に真昆布の場合は1~4等に等級分けがされます。
1等検は主に料亭さん等の出汁昆布に使われることが多く、
佃煮などは商品の特徴によって様々ですが、加工用として等級の低い物が使われることが多くなっています。

昔は昆布の佃煮の出荷量も今とは比べ物にならないほど多く、
業務用としてもかなりの量を製造していました。

と言うことは、当然加工用の等級が低い昆布の方の需要が多かったわけです。
信じられない話ですが、1等検の昆布が余り気味だったのです。

そこで、加工用の昆布と1等検の昆布を
一緒に仕入れる必要があった時代もあったそうです。

うちは昆布の問屋ではなく、昆布製品の製造卸業者なので、
必然的に1等検の昆布が余ってくることになっていました。

最高級昆布佃煮を売りにしているので、
1等検の昆布を使って最級昆布佃煮も作っておりますが、
出荷量は低価格帯の商品の比ではありません。

と言う事情もあり、うちの倉庫には熟成された
天然真昆布がまだ残っているのです。

3-4,女将の願い

しかし、年々その数が減っていき、
全く増えない状況を目の当たりにし、本当に悲しくて仕方ありません。

本当に美味しいお出汁を食すことが出来なくなるのではと、
昆布屋女将としてもですが、
昆布だし愛好者としても、
天然真昆布の収穫量が少しでも戻ってくことを祈るばかりです。

出来ることから少しづつでも
温暖化対策をしていきたいと思っています。

佃真ホームページはこちら
↓↓↓
https://www.tsuku-shin.jp/

小濱 洋子

Yoko KOHAMA
株式会社浪花昆布 常務取締役

1994年株式会社浪花昆布の2代目小濱敬一と結婚。一男一女の母。
2002年株式会社浪花昆布入社、初代女将の営む佃真六甲本店で女将修行をスタート。
長女がフィギュアスケートを始めたため、仕事や家事、スケートの送り迎えにと目まぐるしい日々を送っていた。
娘のスケート引退を機に、本格的に社内業務に携わる。
ぐるぐる昆布カフェの企画、商品開発、開店準備を担う。
現在は、フランス輸出業務に力を入れている。